炎の状態が安定し、長い使用に耐えるものでなければなりません。ガス窯では灯油窯などと違い、小さなバーナーが多く配列されることが多いので、それら一つひとつが安定して燃えることが要求されます。
特に、バーナーヘッド(火口)は重要であり、これが破損すると焼けむらの原因になります。交換が容易で長く使用できるように工夫してバーナーを組み上げています。
【磁器製バーナーヘッドは火皿にのせること】
一般の磁器製バーナーヘッドは下部内側に雌ねじが切ってあり、レギュレーター部分をねじ込んで使用できるようになっています。しかし、この方法では、磁器と金属が接しているので、焼成時、膨張率の違いにより磁器製ヘッドが破損することがあります。これをさけるため、特別に「火皿」というパーツを作り組み込んでいます。
←火皿を使用したバーナー
鉄の膨張によるヘッド破損がありません。
鉄が膨張するとヘッドが割れる可能性あり。
←弊社の火皿を使用したもの
←ねじ込み式のもの
【圧力計を2つ並べて設置すること】
このように弊社ガス窯の圧力計は必ず二つ並んでいます。
左は微圧計(50kpa)、右は一次圧力計(中圧計・0.25Mpa)です。
微圧計は圧力調整器で調整された圧力を示すもので、炉内に投入されるガスの圧力を示しています。
一次圧力計は供給されるガスの圧力を示すものです。
一般的に微圧計だけ確認すれば窯焚きの際はOKですが、隣に一次圧力計があれば供給圧も同時に確認できます。
ガス窯を焚いているとき、陶芸家はガスの残量が常に気になります。供給圧が下がるということは、ボンベにガスが少なくなってきているということですから、ボンベ庫に見に行かなくても確認することが出来ます。
一次圧が変化しているということは、ガスが少ないか、供給設備に異常があったときですから、安全に使用するには必要であると考えあえて設置しています。
←微圧計だけの場合。
供給圧力がわからないので、ボンベ庫の圧力計で確認しなければなりません。
供給圧力が高すぎると配管に結露が生じるなど、不具合が出ます。また、低い場合には温度の上がりかたが悪い、雰囲気がそろわないなどの症状が出ます。
窯に最も近いところで確認することで、確実な窯焚きができます。
「チーズ」と呼ばれる継ぎ手が並んでいます。
テーパーねじを切ることによりパイプの肉厚が薄くなるので焼成時の応力に対しては溶接配管より劣ると言えます。
特に、直線的な配管部分よりもエルボを使用した部分には、より大きな応力がかかるので、ねじを切らない溶接配管が望ましいと言えます。
また、配管継ぎ手などにより圧力損失が発生しますが、これは同じ抵抗を示す直管の長さに置き換えて、圧力損失を求めることが出来ます。例えば、20Aのチーズ一つを経由してガスが直線的に流れた場合、25cm直管が長くなったことと同じであり、90度に曲がった場合にはなんと100cm同径の直管が長くなったのと同じ圧力損失が生じます。この写真の場合、左奥から手前に向かってガスが流れますが、一番奥のバーナー(煙突側)と手前のバーナー(扉側)では相当の圧力損失差があるものといえます。
一般的にガス窯の温度分布は、窯の奥(煙突側)が温度が高く、扉側が低くなる傾向にあります。このような炉周り配管をすると、窯の奥と手前でより大きな温度差となってしまいます。もしくは奥が還元雰囲気、手前が酸化雰囲気になる場合もあります。
これを解消するには、継ぎ手類をいっさい使用せず、バーナーに近い部分のガス管を太い物に変えると温度差などは少なくなります。
←エルボ部分には特に応力がかかるので注意が必要です。
流体の性質上(流体力学的に)、ガスは直線的に流れる傾向があるので、この配管の場合、写真の奥、つまり正面右側が還元気味になる窯であるといえます。
窯に対するボンベの場所や配管の仕方で、ガス窯の焼成バランスは変化します。
←エルボ部分が大きくせり出しているので、作業性の面でも疑問があるといえます。また、急に曲がるエルボは圧力損失が大きくなる特徴があります。
管径が細い場合には、左右の焼成バランスに違いが出るので特に注意が必要です。
継ぎ目のないSTPG(圧力配管用炭素鋼鋼管)を使用しています。
溶接により一体化しているので、焼成時の応力に対してこの上ない抵抗力があります。エルボやチーズなどの継ぎ手を使用していないので、パイプの内部はなめらかで抵抗がなく、ガスはスムーズに流れます。圧力損失を最小に抑えることができます。
一時、溶接チーズを使用した時期がありましたが、焼成バランスに変化があったため、この配管方法に戻しました。
たいへん手間のかかる加工ですが、見た目の美しさと、安定した焼成が得られるのでこの方法をとっています。
ガスが漏れない溶接をするのは熟練の技術が必要です。
こうすることで各バーナーの圧力損失の差が少なくなります。
また、継ぎ手類がいっさいないのでガスの流れがスムーズです。
(0.8㎥の配管)
0.8㎥ガス窯(台車式・炭化焼成付き)
青く見える部分が炉周り配管です。
パイプベンディングマシンを使用して加工してあるので、カーブが緩やかで美しく仕上がっています。
“圧力損失”も継ぎ手を使用した場合よりも低くなります。
【仕様】
型式:DA-08SⅡ
炉壁:205mm
容積:0.8㎥
外形寸法:1870×2080×1910
炉内寸法:930×1020×950H
棚板寸法:450×400 4枚敷き
バーナー:11/4×8本
(※外形寸法には、バーナー、炉周り配管等は含みません。炉内寸法にはバーナースペースは含みません。)
0.1㎥ガス窯(定床式)
青く見える部分が炉周り配管です。
滑らかな曲線を描いて配管されています。管径は20Aで緩やかなカーブが美しく仕上がっています。
“圧力損失”も継ぎ手を使用した場合よりも低くなります。
窯の上部、左右に分岐される部分が、焼成のバランスを取るポイントになります。
写真の窯は、陶芸教室で使用されています。
【仕様】
型式:DE-01
炉壁:140mm
容積:0.1㎥
外形寸法:990×980×1100
炉内寸法:460×460×520H
棚板寸法:380×380 1枚敷き
バーナー:3/4×4本
(※外形寸法には、バーナー、炉周り配管等は含みません。炉内寸法にはバーナースペースは含みません。)
ベンダー加工を行い、継ぎ手類を出来るだけ使わない溶接配管をすること。
ベンダー加工とはガス管を「パイプベンディングマシン」という機械で曲げ、継ぎ目は溶接で行う加工を言います。パイプベンディングマシンを使ってパイプを曲げると扁平になることなく傷もつかず美しい曲線で曲がります。
弊社がこの加工にこだわるのは、継ぎ手にエルボを極力使用したくないことと、ガス管を曲げてしまうことによりガス漏れの心配がなくなるからです。エルボを使用するとガスが流れる際に生じる圧力損失が大きくなり、ガス窯の焼成に影響があると考えるからです。圧力損失とは流体が流れる管において細い部分や障害物によって抵抗が発生し、流体の圧力が低下することを言います。気体の通り道(パイプ)が細かったり急な曲がり(エルボ)があったりすると圧力損失は大きくなります。電気でいう「抵抗」に似ています。溶接配管は少しでも圧力損失を減らし、ガス漏れの危険を無くすという施工方法です。
ベンダー加工をする際のガス管は通常のガス管(SPG)ではなく、シームレス管(圧力配管用炭素鋼鋼管STPG)を使用しています。特に20A以下の比較的細いガス管では曲げたときに継ぎ目が縦に裂ける可能性があるので、STPGを使用しています。また、焼成中に熱が加わってもパイプに継ぎ目がないので損傷の心配がありません。
ねじ込み配管の場合
ねじ込み配管とは、ガス管にテーパーねじを切り、そこにエルボやチーズといった「継ぎ手」といわれるパーツをねじ込んで施工する方法です。ねじ込み配管の施工は非常に簡単ですが、ねじの部分の厚みが薄くなるという欠点があります。焼成による応力の加わるガス窯では、パイプの薄くなった部分が破損する可能性があり、溶接配管に比べて漏れやすくなる欠陥があると言えます。
ねじ込み配管は一般に家庭用の配管工事に多く用いられています。家庭用では呼び径が15Aか20Aのいわゆる白管が使用されますが、焼成による応力を考えるとガス窯には使用しないほうが賢明といえます。家庭用に施工されたねじ込み配管であっても、大きな地震のあとには損傷している可能性があるので、ガス漏れには特に気をつけたほうが良いといえます。
また、ねじ込み配管では圧力損失が大きくなり、バーナーが多く並んでいる窯の場合には最初と最後のもので圧力が違っていることがあります。これはバーナーに供給されるガスの量が違ってくることを意味しているので、炉内雰囲気や温度に大きく影響してきます。ねじ込み配管を家庭用に施工しても、ガスコンロやグリルに使う程度であるので配管設計に大きな間違いがない限り使用に問題はありません。しかし、焼成雰囲気を重視する陶芸用の窯では圧力損失を無視するわけにはいきません。したがって弊社のガス窯にはガス管とガス管のねじ込み配管は行っていません。
溶接配管へのこだわり
「圧力損失」や「焼成の応力」を考えた炉周り配管をすることは非常に重要であると考えます。これを実現させるには溶接配管という技術が必要です。溶接で丸いパイプとパイプをつなぎ合わせて、ガスが漏れ出ないように加工することは熟練の技が必要です。安全で完成度の高いガス窯を作るために「溶接配管の技術」はなくてはならないものです。